第1回『電動ユニットまわりの吸音対策』

(アームズマガジン 2003年5月号掲載)


 我々は『自烈隊総合技術研究所』と申します。我々の研究課目の一つに、現代サバイバルゲームにおける「勝つためのウエポン」の追求がありますが、今回は市販の吸音材を使って、比較的簡単に製作できる「P90サイレントカスタム」をご紹介します。サバイバルゲームで活躍したい、あるいは密かに他ゲーマーとの差別化を図りたいと考えているゲーマーの方々にお読み頂き、お役立て頂ければ幸いです。

●理想のウエポンとは?

 狙った所に良く当たる、遠くまで飛ぶ、装弾数が多い…と、このあたりまでは簡単に想像できますが、実はゲームに有利なウエポンの条件はいくつもあります。これらの具体案を高次元で達成できれば「勝つためのウエポン」が完成すると考えられます。
 現在、エアガンの作動方式にはガス、コッキング、電動がありますが、実際にはガスガンは冬季に使用不可となることが多く、コッキングガンは速射性が決定的に遅い等の制約があるため、ベースのエアガンとしては電動ガンを選択することが妥当でしょう。
 電動ガンの各条件に対応する対策のうち、安全性を維持しつつ攻撃力と生存率を同時に高められる、極めて合理的な方法でありながら、今まであまり取り上げられていない項目があります。それが我々の第一の研究課題である「作動音を小さくする」という項目、すなわち『電動ガンの静粛化』です。

●発見されずに一方的に攻撃!

 ゲーム中にどこからともなく電動ガンの作動音がした場合、あなたは必ず反応するでしょう。しかし、その作動音が極めて小さい場合、熟練ゲーマーであっても、状況判断に迷いが生じ反応が若干遅れてしまいます。その状況は、攻撃側からみれば格好のターゲットとなってしまい、攻撃された側の被弾率が上がるのは明白と言えるでしょう。
   また、作動音が小さいということは、攻撃側が敵ゲーマーに命中させることができなくても、その弾道さえ見られなければ射撃位置が特定される可能性は極めて低く、攻撃側にとって非常に有利です。さらに、射撃位置が特定されなければ、その場を移動することなく次のターゲットを攻撃あるいは索敵することができるでしょう。
 作動音の静粛化によるメリットは他にも多々考えられますが、ゲームの戦略性まで影響する、重要なカテゴリーであるということはご理解頂けると思います。ほとんどのゲーマーの方は、サプレッサを使用することで発射音そのものは相当低下できることは既に知っているでしょう。実際、固定式ガスガンや、ボルトアクションライフルには大変有効です。一方、電動ガンも発射音そのものにおいてはサプレッサの効果が望めますが、それ以外に電動ユニットという強力な音の発生源が存在します。従ってほとんどの静粛化対策は電動ユニットをいかに静かにするかが勝負と言えます。

●戦闘能力2割アップ!?

 今回はお手軽に、電動ユニットと本体フレームの間に吸音材を充填してみましょう。これだけでも作動音が低下し、相手の距離感覚を混乱させることができます。発射音が聞こえた時、電動ガン特有のメカノイズ(ギヤ音、ピストン打撃音等の比較的高い音)がどのくらい聞き取れるかでおおよその距離が推定できます。これはサプレッサ装着だけでは解消できません。しかし発射音、メカノイズ共に小さいならば、相手にはこちらがより遠くにいるものと勘違いさせることが可能です。
 これは攻撃に有利なことはもちろん、守りにも有効です。例えば射撃後に反撃されにくい等の効果が得られるでしょう。攻撃力、生存率とも1割(計2割)くらいは高まるのでは無いでしょうか!?
 それでは、実際の作業に移りましょう。

★有利なウエポンの条件一例
1)取り回しが良い
・走る、歩く、這う、伏せる、隠れる、構える…いずれの動作においても妨げにならず、特に不意を突かれた時でもぶつけたりしない形状。
・障害物(ブッシュ、壁など)越しに攻撃できるよう、片手で扱えたり下を向けられたり出来る形状が理想。重量バランスが良いもの。
2)射程が長い
・敵ゲーマーの射程外から攻撃できる。
3)初弾発射までの時間が短い
・素早くサイティングができる形状。
・とっさの場合、サイトに頼らずに当てられる。
4)弾速が速い、パワーが強い
・ブッシュ貫通力が高い。
・敵ゲーマーへの着弾が速い。
5)初弾命中精度が高い
・無駄弾を浪費しないのは有利。(初弾が当たれば2発目は要らない)少ない発射音で発射位置を特定するのは困難であり、隠蔽性が高い。
6)発射速度が速い
・弾幕が厚くなるので露出時間の少ない敵ゲーマー、高速移動中の敵ゲーマー、多人数を相手する際に有利。
7)作動音が小さい
・射撃位置を特定されにくいため隠蔽性が高い。(※作動音とは発射音、コッキング音、ハンマー等の打撃音、その他のメカノイズを含む。)
8)軽い 
・疲れにくい。筋力が同等と仮定するなら、より素早い動作が可能。
9)発射不可時間が少ない
・いかなるタイミングでも発射可能であれば素早い反撃が可能。装弾不良、弾詰り、故 障などのトラブルが無く、 マガジン交換、バッテリー交換(電動ガン)は少ない、あるいは無いものが理想。
10)手間が掛からない
・ゲーム毎に分解や部品入れ替えなどがないもの。メンテナンスが容易、あるいはフリーなものが理想。
※2)および4)は、ゲームにおいて過度のパワーアップが不可な点を考慮する必要がある。

電動ガン静粛化対策項目
1)電動ユニット周りの吸音対策
2)発射音の低減対策(サプレッサ)
3)ギアの減音対策
4)ピストンの打撃音対策
5)電動ガン本体内部の防音対策
6)その他の要素の対策(マガジン給弾音等…)

なぜP90なのか? 静粛化対策にあたり、必要な条件がある。
@電動ユニットと本体のフレームの間にスペースがあること:吸音材を詰めるためと、本体と電動ユニットの接触部分(ここから音が伝わる)を少なくすることができるため。
Aフレームが一体で隙間が少ないこと:内部で発生した音を極力外部に漏らさないことが重要。
B対策加工が容易なこと:電動ユニットがモーターと一体で、容易に本体から分離できるものが作業しやすい。現在、これらの条件を満たしているのはAUGとP90だ。そのうち軽量で短く取りまわしのよい、P90を選定した。

 今回は吸音材としてEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)スポンジという材料を主に使用するが、若干高価であり、通常粘着材付きで販売されているのでこれを除去する手間もある。そこで音漏れを防ぐために重要な前部と後部にEPDMスポンジを最小限使用し、中間は脱脂綿で代用するサンドイッチ構造をとった。また、吸音対策の効果をより高めるため、簡易的な電動ユニットのフローティング対策を同時に行った。
 入手が容易で吸音材として一般的な材質、構造の違う材料を事前に用意し、実際に充填して音圧レベル、周波数特性を測定。(脱脂綿、メラミンスポンジ、ウレタンスポンジ、EPDMスポンジ)。結果、EPDMスポンジが最も高い効果を示した。音圧レベルでは4種の差は1dB程度と少ないが音質にはかなりの差が出る(こもった音になる)。この材料はEPDMという合成ゴムを発泡させたものである。吸音性能が良く、更に他のスポンジと比較し、弾力が無く密着性に優れていることと、重量があるため遮音性(音を遮る性能)にも優れていることが良い結果の理由と考えられる。なお今回の方法と、すべてEPDMを使用した場合とで殆ど性能に変化が無いことを確認している。

@今回の対策に使用するもの。ドライバー(+)、ペンチ、ハサミ、カッター、彫刻刀、ビニールテープ、針金等の長い棒(吸音材詰め込み用)、インシュロック、吸音材(EPDMスポンジ、脱脂綿)どれもホームセンターや100円ショップで揃う。EPDMスポンジは防音材コーナーにある。今回は東急ハンズで”エプトシーラ”を購入。無ければ”隙間テープ”を探し、袋の裏の材質表示で確認しよう。銃は東京マルイのP90TRを使用
A本体フレームより電動ユニットをとり外す。セパレータ(電動ユニット固定プレート)の2本のネジを緩めて配線が通る中央の穴に指を引っ掛け、上に引っ張りながら前方にずらすと外れる。電動ユニットはそのまま持ち上げると外れる
B開口部の処置。このままではシリンダ内部に吸音材が入り込んでしまうので、処置が必要。シリンダを指で力を入れて回す。かなり硬いので少しずつ気長にやろう。テープ等を指に巻き、滑り止めにするとより簡単だ
C開口部は電動ユニットを後ろから見た時左下になるようにする。ここはタペットプレートが切り欠かれているので、比較的スムーズにエアが抜ける
D製品によっては硬くて回転が困難な場合もある。その場合は手近にある素材を使用しカバーを作る。(ここではペットボトルを使用)
E開口部は可能な範囲で下にずらすとカバーが製作しやすく、固定しやすい。切り出したカバーは両面テープ等で電動ユニットに接着。開口部とカバーの間に隙間が開いているのが分かるだろうか。その他の開口部も吸音材が侵入しないようにビニールテープ等で塞いでおく。
F吸音材の充填によってヒューズが元の場所に入らなくなるので位置を変更。ヒューズカバーを外し、端子をインシュロックで固定。これにより収納スペースが少なくて済み、カバー無しでもヒューズが外れにくい。又、端子を締め付けることにより接触抵抗軽減効果も期待できる。交換の際は強く引っ張れば脱着できる。インシュロックが無ければ、サランラップ等で包んでからビニールテープを巻きつける。ヒューズは意外に発熱するので端子部に直接粘着材が付くと溶け出してベタベタになり、接触不良の原因となるおそれがある。絶縁は特に必要もなく、やるとしても配線接続部分だけで十分だろう。ヒューズを取り付けずに使用するのは厳禁。電動ユニットが壊れるだけでなく、ケーブルが焼損したりバッテリーの過熱による液漏れ、発火、破裂事故をおこす可能性がある。
G電動ユニットで発生した振動が直接本体フレームに伝わらないよう処置(フローティング処置)。まず本体フレームの電動ユニットと接触する凸部分(4箇所)を削り取る。
同様に内部のリブ(左右2箇所)も取り除く。ペンチ等で折り取った後、吸音材が引っ掛からないよう彫刻刀等で平らにならしておく。
H本体フレームの凸部や内部のリブを取り除くと、このままでは電動ユニットの位置決めができない。そこで電動ユニットのシリンダ後端にビニールテープを2枚重ねて貼り付けるとセパレータがはまり込む形になり、ガタが無くなる。吸音材充填の前にはまり具合を確認しておこう。今後の電動ユニットの位置決めはここで行うことになる。
I吸音材を充填する理由には2つある。一つは作動音の吸音のため、もう一つは本体フレームの開口部を塞ぐことだ。これで作動音が外部に漏れ出すのを軽減できる。P90の本体フレーム内部を見るとかなりの開口部があるのが分かるだろう。ここから音が漏れ出しているのだ。実は吸音材の充填によって得られる効果のほとんどはフレームの開口部を塞ぐことによるものと考えられる
J吸音材は2種類使用する。本体フレーム前後の開口部を効果的に塞ぐためには吸音材テストで最も効果の高かったEPDMスポンジを使用。それ以外の場所には安価で取り扱いが容易な脱脂綿を使用する/TD>
K吸音材は細かく千切る、あるいは切るなどして詰め込み易い形状にする(5〜10mm角程度)。各切片の大きさはなるべく均等にするとまんべんなく詰められる。EPDMスポンジは粘着部分を指でちぎって取り除く必要がある
L加工した吸音材を少しずつ充填していく。まずはEPDMスポンジを充填し隙間を塞ぎ、少し強めに押し込んで内部に密着させる。本体フレーム前方から光を当ててみて隙間が無いことが確認できれば良い。この時点でセミオートで数発試射(空撃ち)し、動作を確認しておく。次にシリンダ後端の高さまで脱脂綿を充填するが、内部を圧迫しないよう軽めで良い。少しずつ奥から積み重ねるように入れていく。時々、セミオートで数発試射(空撃ち)しながら、作動に支障が無いか確認しながら進める。作動不良になる場合は、詰め込みすぎなのではじめからやり直す
Mセパレーターを取り付ける。セパレーターが電動ユニットに密着しているか確認。取り付け後、開口部よりEPDMスポンジを詰め込む。最後にこぼれ落ちてこないよう脱脂綿を詰め込んでおく
N最後にセミ、フルオートで試射してみて、作動不良や弾道、飛距離にばらつきが無ければ完成

●発射音を測定

 それでは効果を見てみましょう。対策前と後で、フルオート時の音の大きさと周波数特性の測定を行いました。
 音の大きさを計測するには騒音計が定番ですが、周波数特性測定もできるタイプは非常に高価。そこで、より安価で手軽な方法としてパソコン上で動作する市販の音楽編集ソフトを使う方法があります。作動音をマイクで取り込み、波形計測機能を利用し計測を行いました。この手法を用いることで対策の効果を実際に目で見ることが可能となります。  音の計測単位はdB(デシベル)といいます。これは音の大きさ(以下音圧レベルと言う)を示す単位として広く使われています。この他に、実際のフィールドにおいてどの程度の効果があるのか実験を行いました。

●『レベル1』の実力

 少し風の強い日の実験でしたが、道路上正面でノーマル45mに対し、35m離れると作動音の聞き取りが困難になりました。距離で約2割の短縮です。作動音から言えば、今までよりも2割近づけることで命中率が向上し、同じ距離では2割遠くから撃っているように聞こえるでしょう。有利になるのは間違いありません。実際のゲームでは他に気を取られる要素が多く、どこから弾が飛んでくるかも分からないので、識別はより困難であると思われます。戦い方によっては2割以上の戦闘能力アップになるでしょう。
 比較的安い費用で(材料費で千円前後)、かなりの効果が得られるのでぜひトライしてみてください。

フィールド実験結果(騒音計が感知する距離の比較)

 この実験を行った日は若干風が強く木々の音が大きかったため、環境騒音も高めだった。この条件で、ノーマルでは45m離れて発射音が確認できたのに対し、対策後は35mまで近づかないと確認できなかった。(約2割の距離短縮)この時耳ではかすかに聞こえはするものの、かなり注意を傾けて聞く努力をしないと聞き取れないレベルの音だった。測定では、当然いつ音がするか分かっており聞く準備もできている。方向も正面だ。これが実戦での相手にとっては、聞こえてくる方向は未知で、障害物や他から聞こえる射撃音もあり、自らも移動や射撃中であったりと、音の感知を阻害する要素がはるかに多くなる。したがって、実戦においては吸音対策の効果はさらに高まるはずだ。

音圧レベル測定結果
ノーマル:81.8dB→対策後:79.6dB(改善値:2.2dB)

周波数特性測定結果

対策後はノーマルと比較し、突出している周波数(@約880Hz、A約1700Hz)のレベルが小さくなっている。(@で約6dB、Aで約3dB)又、3500Hz以上の高音域では全体的に大きくレベルが下がっている。全体的に音が小さくなり、音質もより低音にシフトした(こもった)音になっているといえる。
(設定:FFTサイズ:2048、窓関数:Hanning)ピーク周波数880Hz(全周波数の中で最も大きな音圧レベル)より-20dB(10分の1)以下は無視できるため、切り捨ててある。

計測画面(使用ソフトはCOOLEDIT2000)

音圧レベル・周波数特性測定方法

エアガンを吸音材の上に置き、ユニットの上面中央50pの位置にマイクをセットして測定。通常音圧レベルの計測は対象物より1m離して行われるが、今回は環境音の影響、発射音の影響を軽減するため、あえて近距離で行った。波形取得後、計測時間(2秒)に収まるよう編集。JIS A特性フィルタ(耳の周波数特性に合わせる為の補正フィルタ)にて補正後、音圧レベル算出及びFFT処理を実施。ソフトはCOOLEDIT2000を使用。ポテンショメータ付マイク(自作)は普通型騒音計を用いて1kHzにて校正済

フィールド実験方法

場所は林の未舗装道路。騒音計の設置場所から10m毎の等間隔に距離を表す目印を設置。今回は0〜60mを用意。初めに環境騒音を計測してその平均値を算出しておく。電動ガンを撃ちながら徐々に近づき、環境騒音が平均値近辺(±1dB)の時に、騒音計のバーグラフメーターで発射音が確認出来た時の距離を計測する。
(使用機器:CUSTOM SL-1370 普通型騒音計)

音の単位”dB”とは?

長さを測るのにメートルという単位があるように、音にもデシベル(dB)という単位があります。音は空気の圧力が変化することで生じますが、そこで空気の圧力が20μPa(マイクロパスカル:圧力の単位)変化した時の音を人間が聞き取れる最小の音とし、これを0dBと取り決めています。この音と比較して、どのくらい大きな音かという比率をdBという単位で表し、これを音圧レベルと言います。ちなみに電動ガンは機種にもよりますが平均音圧レベルは90dBくらいです。 (20μPa:約50億分の1気圧) 日常生活で耳にする音の音圧レベル。電動ガンの音はかなりうるさい音に属することが分かる

周波数特性とは?

日常耳にする音は、実は様々なレベル(大きさ)の様々な周波数の音が混ざり合ってできています。これを分解して、各周波数がどのくらいの大きさで含まれているかを示すのが周波数特性グラフです。よくコンポやカーステレオについているグラフィックイコライザーのメーターを、更に細かくした物と思って頂ければ良いでしょう。
これはP90のセミオート作動時の音の波形。大きな音ほど上下に大きく振れる。ちなみに一番大きな音はピストンの打撃音だ。
これを周波数分析するとこのようなグラフになる。横軸は周波数で右に行くほど高い音、縦軸は音圧レベルで上に行くほど大きな音である。電動ガンの作動音は非常に様々な周波数が集まって構成されていることが分かる。その中で特に高い音(@、A)に注目してほしい。これが作動音の中でも最も耳障りに聞こえる音である。つまり対策の効果を見るにはここの変化に着目すれば良い。

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