第8回『サウンドサプレッサを考える』
(パート2)

(アームズマガジン 2004年8月号掲載)


前回は、本体フレームの防音対策を行いました。もはやメカノイズより、マズルからの音が大きな状況です。そこで今回は、サプレッサの更なる高性能化を試みてみましょう。ここでご報告した事柄が、ゲーマーの方々の更なるチューニングにお役立て頂ければ幸いです。

(※圧力分布は参考イメージ。実際を示すものでは無い。)

■TR用サプレッサ(ノーマル)の動作波形

@はインナーバレル前端からの空気の吐出音、弾丸がインナーバレルから射出された瞬間に発生する音、ピストン打撃音等。(ピストン打撃音はバレル長やシリンダ容量等の条件によって、出現場所は変化する)Aは弾丸がサプレッサから発射される前に吐出される空気によって発生する音。Bの鋭いピークは空撃ちでは発生せず、非常に短時間なことから、サプレッサ前端から弾丸が射出された瞬間に発生する音と考える。Cは内部構造(仕切り板の有無、場所、吸音材等)によって波形が大きく変わる。尚、この領域には残響音、反射音なども多く含まれる。

■実験方法

吸音材はTR用サプレッサ用ウレタンスポンジ(標準で4分割)を加工して使用するため、4の倍数の16分割を最大分割数とした。サプレッサ全体の16分の1の長さの部屋を最小単位として、様々な大きさ、数の部屋を作り、最も性能が良い組み合わせを探す。部屋の組み合わせは、16分割であることに制限される。(例:取り付け側から、1-2-4-9:16分の1と、8分の1、4分の1、16分の9の部屋の組み合わせ)
@等分割(例:16等分割、8等分割、4等分割(4-4-4-4))。
A徐々に増大(例:取り付け側から、1-2-4-9等・・・)。
B徐々に縮小(例:取り付け側から、4-3-2-2-1等・・・)。
吸音材:TR用サプレッサ付属のウレタンスポンジ、仕切り:厚紙、中心穴径8mm。

●TR用サプレッサの仕切りを更に増やしてみると・・・

 サウンドサプレッサを考える(パート1)では、TR用サプレッサに使用されている吸音材(ウレタンスポンジ)の間に仕切りを入れることによって高性能化を図りました。単純に考えれば、インナーバレルから発生する音を小さくすることが目的ですから、更に多くの仕切りを入れると性能は向上するはずです。今回は、材料の加工性、入手性、形状の安定性を考慮し、前回と同様の素材(ウレタンスポンジ)を使用して実験しました。
 結果は、等分割の場合、4等分割よりも多いと逆に性能は悪化します。なぜなのでしょうか?
 実はサプレッサを装着した状態で発生する音は、複数の音がからみ合って構成されています。主に4種類(図@ABC参照)あると考えますが、それぞれの発生原理は異なります。サプレッサ内部の仕切りが多いほど高い軽減効果が得られるのは、@の音だけと考えます。他の音は、サプレッサ自体から発生する音で、仕切りの枚数が多過ぎる場合、逆に音は大きくなる傾向があります。特にBの音は非常に短時間の音ですが、他の音と比較して最大音圧レベルが高いため、影響はかなり大きく、全体的な性能を悪化させてしまう結果になります。ある程度以上の性能を追求しようとすると、インナーバレルから発生する音よりも、サプレッサ自体が発生する音のほうが支配的になると考えます。これらをうまくバランスさせる必要があるのです。
 現状の4等分割は、全体のバランスが良く取れたセッティングと言えます。これ以上の高性能化を図るには、更に最適なバランスを見つけなければなりません。
 基本的に、急激な構造の変化は音の発生原因になること、インナーバレルから出たエアの圧力や音は、距離(容積)に応じて徐々に低下することから、各部屋の条件もこれに合わせて徐々に変化させると良いはずです。今回は吸音材の密度や硬さは一定(仕切り板の厚み分圧縮されるので、枚数によって若干の変化は生じる)として、各部屋の大きさを変化させて実験を行いました。尚、最も良い組み合わせに対し、サプレッサ前端から発生する音をさらに軽減する為、射出口の周囲にフェルトを貼り付けます。

●効果の程は・・・

 TR用サプレッサでは、徐々に部屋が大きくなる構造が良い結果になりました(最も良かったのは、取り付け側から3-3-4-6)。但し、4等分割と比較して0.1dB〜0.3dB程度のわずかな差です。先端にフェルトを貼った場合は、逆転して4等分割が良い結果になり、全体のバランスを取る難しさを実感します。最大の効果を得るなら、フェルトを貼り付けた状態で部屋割りを考え直す必要があります。全体で0.7dB程度改善されましたが、今回の方法では、もはや大幅な改善は望めないと考えます。現在のP90本体の性能を十分に生かすには、更に高性能なものが欲しいところです。

●大容量サプレッサを使用する

 そこで容積の大きなサプレッサを使用し(TR比で約1.8倍)対策を行います。容積が大きくなることにより、取り回しが犠牲にならないように、TR用サプレッサよりも全長の短い物を選定しました。実験方法はTR用サプレッサと同様16分割としました。仕切り板、吸音材共、穴径8mmとし、吸音材には、硬さがTR用サプレッサ付属のウレタンスポンジとほぼ同等の、市販のウレタンスポンジ(厚さ3.5mm)を、円盤状に切り抜き、必要枚数積み重ねて使用しました。最も良い組み合わせに対して、射出口内面へのフェルト貼り付けを行いました。
 結果、等分割では4等分割が最も良く、TR用サプレッサと同様に、仕切りの枚数が多すぎることは逆効果であることが分かりました。各部屋の大きさを変化させた場合もTR用サプレッサと同様に、徐々に部屋が大きくなる構造が良い結果となりました。効果は、TR用サプレッサより明確で、4等分割と比較して0.7dBの差が出ました(最も良かったのは、取り付け側から2-2-3-3-6)。射出口内面へのフェルトの貼り付けにより、更に1dBの効果が得られました。

■使用サプレッサ

TR用サプレッサと大容量サプレッサ。外径は大きいが、全長は短い。
TR用サプレッサ:全長 195mm:外径 35mm:内径 29mm:有効長 180mm:内容積 119cc
  大容量サプレッサ:全長 133mm:外径 50mm:内径 48mm:有効長 118mm:内容積 213cc
@『サウンドサプレッサの対策』に使用するもの。TR用サプレッサ、大容量サプレッサ、ハサミ、カッターナイフ、彫刻刀(丸刀)、まな板、スケール、コンパス、厚紙(以前使用した430g/m2のもの)、ウレタンスポンジ(厚さ3.5mmを使用)、薄手のテープ、丈夫な太目の糸、両面テープ、フェルト(厚さ2.5mmを使用)、紙の癖付け用円筒物、P90クリーニングロッド、φ8パイプ材または棒材、内径10mm以上のパイプ材、ノギス、マジック、六角レンチ呼び2(大容量サプレッサ用)。以下推奨工具、サークルカッター、打ち抜きポンチ(直径8mmと直径7mm程度の短いものが良い)、マシンバイス。
ATR用サプレッサの場合の作業から示す。厚紙からスペーサを切り出す。長さ88mmで、幅、33mmを2枚、45mm、67mmを各1枚切り出す。
Bスペーサは、円筒物で筒形に癖付けを行い、薄手の伸縮しないクリアテープ等で貼りあわせる。セロハンテープでも良い。
C仕切り板は、コンパス等で直径29mmの円を書き、正確に切り抜く。サプレッサ内部でがたつくと、BB弾と接触してしまう。内径8mmの穴(BB弾の通り道)はコンパスの円の上から、丸刀の彫刻刀を円形になるように何回か押し当てると切れる。φ8パイプ等を用いて修正するので、小さめの穴にしておくと良い。サークルカッター、打ち抜きポンチ及びマシンバイスを用いるときれいに加工できる。
D組み立て前に、キチンと仕切り板の中央に穴が開いていることを確認する。φ8パイプ等に通した2枚の仕切り板を相対的に回転させてみる。穴ずれが明らかな場合は、パイプ等に通す段階で、修正する。キチンと中央に穴が開いていれば、相対的に回転させても、2枚の仕切り板は、ずれない。穴がずれているものはBB弾が接触してしまうため、使用できない。穴を広げること及び、外周を切ることによって、ある程度、修正できる。修正できないと思ったら、潔く作り直す。一番先端の仕切り板は一部見えてしまうので、気になるならマジック等で黒く塗っておく。
ETR用サプレッサの吸音材を切り分ける。長さ33mmを2個作る。2個のスペーサに吸音材を入れて、片方の吸音材が33mmになるように切り分ける。
Fスペーサに吸音材を入れる。挿入後、均等な円形になるよう整形する。長さ67mmのスペーサには、長さ45mmの吸音材1本と長さ12mmの吸音材2本を入れる。また、丈夫な太目の糸を通しておくと、入れ直し等の抜き取りがしやすい。
G仕切り板と吸音材入りスペーサを、スペーサ長さ67mm、45mm、33mm、33mmの順番に入れて組み立てる。サプレッサの先端は角が丸められており、インナーパイプが先端には入っていないため、一番先端の仕切り板にはインナーパイプの厚み分だけ、がたつきがある。組み立て時、φ8パイプ等を利用して、仕切り板の穴が一直線になる様に組み立てると良い。
Hサイトレシーバーに取り付けて、チャンバー側からバレルを覗いてみて、仕切り板の穴の見え方を確認する。BB弾が接触してしまう程ずれている場合は、サプレッサの取り付けを調整するか、サプレッサを再組み立てして調整する。
試射し、問題が無ければ完成。
I大容量サプレッサについても、同様の作業を行う。厚紙からスペーサを切り出す。今回選定したサプレッサは、内径48mm、有効長118mmであるため、長さ148mmで、幅、14.5mm、22mmを各2枚、44mmを1枚切り出す。
J仕切り板を切り出す。今回選定したサプレッサは、内径48mmであるため、中央に穴を開けること及び外周をきれいに仕上げることは、TR用サプレッサ(直径29mm)に比べ、困難になる。サークルカッター、打ち抜きポンチ及びマシンバイスを用いることをお勧めする。打ち抜きポンチを用いる場合、仕切り板の中央に大きめの円を描いておく。この円を用いてポンチの位置決めを行い、マシンバイスで締め上げて、仕切り板を打ち抜く。1枚成功したら、これを型紙として使い、他の仕切り板も打ち抜く。ポンチの形状によって、穴が大きくなることがあるので、修正のことも考慮し、小さめのポンチを用いて加工する。組み立て前に、キチンと仕切り板の中央に穴が開いていることを確認する。φ8パイプ等に通した2枚の仕切り板を相対的に回転させて、ずれ具合を確認する。穴ずれが明らかな場合は、パイプ等に通す段階で、修正する。穴がずれているものはBB弾が接触してしまうため、使用できない。修正できる量は限られるので、ずれの大きい仕切り板は、作り直す。
Kウレタンスポンジを切り出す。今回は、仕切り板と同じく外径48mm、内径8mmとした。中央の穴は、打ち抜きポンチを用いて加工した。φ8パイプ等にウレタンスポンジと仕切り板を通し、打ち抜き穴を基準に、仕切り板を型紙として外周を加工する。ウレタンスポンジの外径が大きいと、組み立て時、穴位置がずれやすいので好ましくない。
Lφ8パイプ等を基準として、仕切り板、スペーサとウレタンスポンジを順番に入れて組み立てる(インナーバレル側から、スペーサ長さ14.5mm、14.5mm、22mm、22mm、44mm)。内径10mm以上のパイプ材を用いて、仕切り板とウレタンスポンジを、押し込んでいく。組み立て時、ウレタンスポンジを、大きく変形させないしないように気をつけること。中央に穴が開いていたとしても、片側1mmの隙間しかないので、ずれてしまうとBB弾が接触してしまう。組み立て終わったら、φ8パイプ等を抜いてみて、BB弾の通り道に、はみ出していないことを確認する。はみ出している場合は、再組み立てする。
Mサプレッサの射出口内面に、フェルトを貼り付ける。短冊状に切ったフェルトを貼り付け、BB弾の通り道に、はみ出していないことを確認する。また、一番先端の仕切り板は、両面テープで、内壁に固定した。
Nサイトレシーバーに取り付けて、チャンバー側からバレルを覗いてみて、仕切り板の穴の見え方を確認する。BB弾が接触してしまう程ずれている場合は、サプレッサの取り付けを調整する。試射し問題が無ければ完成。

●取り回し、性能共に向上!

 大容量サプレッサの採用によって、発射音が、TR用サプレッサ4等分割との比較で、3.4dB小さくなるという結果になりました。(約30%の減音)全長は、62mm短くなったにも関わらず、今回の条件の中では、限界に近い効果を得ることが出来たと考えます。今回は吸音材、仕切り板は前回記事に準じた条件で行いましたが、材質、構造の工夫によって、まだ改良の余地はあると考えます。次回は様々な角度からの『P90サイレントカスタムの実力検証』です。乞うご期待!!

■サプレッサ性能測定方法

測定場所は土の地面で周囲に音を反射する有害障害物の無い場所を選定。サプレッサの音を出来るだけ正確に測定する為に、本体全体を密閉し発生する音を遮断する防音ボックスを使用し、サプレッサより発生する音のみを測定している。今回、防音ポックス前面反射音を軽減する為、防音ポックス前面に吸音シートを貼り付けた。使用銃はP90TR。弾丸発射状態で測定。弾受けは十分距離を取り、着弾音の影響が無い様に配慮。騒音計で取得したA特性フィルタ(耳の周波数特性に補正するフィルタ)補正済みの作動音をパソコンに取り込み、フルオート2秒間の騒音レベル算出と周波数特性分析を実施。同時にオシロスコープの状態監視機能で環境騒音レベルが測定条件を満たすこと(測定レベルと環境騒音レベルの差が20dB以上あること)を随時監視している。防音ボックスの防音性能は約20dBあり、JIS記載の測定対象に影響を及ぼさない音圧レベル差10dBを十分満たしている。測定対象と測定器の位置関係はJIS Z 8731:1999(環境騒音の表示・測定方法)に準拠している。(使用機器:CUSTOM SL-1370 普通型騒音計、FLUKE 123 Industrial ScopeMeter、EDIROL UA-5 USB AUDIO INTERFACE、ノートパソコンpentiumV750MHz)

■動作波形比較

対策前と対策後の動作波形。3発分を切り出して重ねて表示している。全体的に大きな効果が認められる。特にピーク音に関しては、約6dB(半分)と高い効果が得られた。ピーク音の軽減は、先端のフェルトが、効果のかなりの部分を占めていると考える。尚、今回から防音ポックス前面の反射音軽減のため、吸音材を貼り付けた。特性が前回と若干変化していることを御了承頂きたい。

■周波数特性測定結果

高域の周波数(A)は大幅に軽減された。対して低域の周波数(@)は一部上昇傾向が認められる。周波数特性が全体的に低音にシフトしていると言える。耳障りな高域の音が大幅に軽減されたことで、更に発射音は聞こえにくくなったと考える。鋭いピークも平坦化され、耳障りな音の無い、優秀な周波数特性と言える。
(設定:FFTサイズ:2048、窓関数:Hanning。ピーク周波数(全周波数の中で最も大きな音圧レベル)より-20dB(10分の1)以下は無視できるため、切り捨ててある。)

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