第3回『ギヤノイズを考える』

(アームズマガジン 2003年8月号掲載)


今回はついにメカボックスの静粛化をはじめます。それに先立ち、まず『電動ガンの音』の現実に迫ってみたいと思います。我々とともに、今まで語られたことのない『電動ガンの音の世界』に踏み込んで行きましょう。多くの方々が想像するしかなかった『電動ガンの音の世界』が明らかになります。ここで得られた事柄が、ゲーマーの方々の更なるチューニングにお役立て頂ければ幸いです。

●誰も語らなかった『電動ガンの音の世界』

 前回は『サプレッサ』について対策を行いました。今回からはメカボックスについて対策を行っていきます。メカボックスの音は、周りに聞こえるだけでなく、射撃している本人にとっては最も耳元に近く非常に大きな音になります。射撃中に周りの音が聞こえないことはもちろん、大きな音を聞いた後は、周囲の小さい音が聞こえにくくなります。これは大きな音程回復に時間が掛かります。メカボックスの音はできるだけ小さくする必要があるのです。しかしこの音は原因が一つではなく、モータ、ギア、メカボックスの様々な要因が絡み合い発生しているため、対策は容易ではありません。そこで、まず電動ガンがどの様な音を発生しているのか解析してみましょう。P90TRのセミオート作動時の動作波形を示します。作動時間は約0.2秒。ここでは、電動ガンの作動面から、コッキング領域、発射領域、空転領域の3領域に分類して説明します。

■作動音分析

P90のセミオート作動状態を波形で示したもの。音圧レベルが高いほど波形の振れが大きくなる。音の波形を取得することでその動作がある程度推測できる。この結果から何を対策すべきかを決め、その効果も、より明確に把握できる。(使用銃:P90TR。TR用サプレッサ付き。測定方法及び位置は『メカノイズ測定方法』に準拠。)

  <コッキング領域> 発射音の前に聞こえる、「ギャッ」又は「ジャッ」という音で、ピストンのコッキング時に発生する音です。この領域では、主にモータの回転音(これに付随する高調波音)、ギヤ歯面の当たり音が存在します。他にも、共振音やその他の摩擦音なども発生源となっていると考えます。音の大きさ自体は比較的小さいのですが、周波数(音の高さ)の成分を分析すると、1000Hz〜5000Hzの音が多く含まれています。実はこれがちょうど人間の耳で一番聞こえ易い(耳障りな)音なのです。人間の耳は誰でも、穴の直径と入り口から鼓膜までの距離の関係が(これを耳の共振周波数という)ほぼ一緒で、1000〜5000Hzの範囲は他の周波数と比較し聞こえ易く出来ています。これは、悲鳴や動物の鳴き声などの周波数と一致し、人類が生き残って行くために危険を察知したり、獲物を見つけたりする能力の名残と言われています。実際、時計などのアラーム音はこの聞こえやすい周波数域で作られています。ちなみにフルオートでは、より回転数が高く、打撃時に発生する振動の中でモータが回転し続けることで、ギヤをはじめ各部様々な干渉が起こると考えられ、さらに大きな複雑な音になります。
<発射領域> 「バン」、「ガン」といった音として聞こえ、打撃時の振幅は最大であり、電動ガンが発生する音としては最も大きい音といえます。コッキングされたピストンはセクターギヤより外れ、前進を開始し、エアを吐出した後、シリンダヘッドに衝突します。この領域の音の中心は銃口からのエア吐出音と、ピストンの衝突による打撃音です。打撃音は、銃口より放出されるものと、シリンダヘッドからメカボックスに伝わり、銃本体へと伝わって放出されるものに分類できます。ピストンの打撃力は想像以上に大きく、その打撃振動はピストンだけに止まらず、電動ガン全体を振動させています。
<空転領域> ピストンのシリンダーヘッド衝突後から、電動ガンの動作が停止するまでの音です。この領域は、モータが駆動していないのに、コッキング領域と比較し意外にも大きな音を発生していることが確認できます。ギア及びモーターに付随する音に加え、ピストンの打撃によるメカボックスの振動、更に波形が大きくなったり、小さくなったり変動を繰り返していることから、スプリングの振動が大きく影響していると考えます。この領域で最大の音は、逆転防止ラッチ作動音であると考えています。その根拠は、測定ごとにタイミングが異なることです。この他にマガジンの給弾音、セミオートラッチの作動音とスイッチの戻り音等が存在します。

■P90用メカボックス(Ver.6)の構造

@メカボックス:ピストン、シリンダやギヤ等を保持、ガイドする
Aスイッチユニット:電気の流れを司る。スイッチ、スイッチレバー、スイッチホルダー等が含まれる
Bピストンアッセンブル:最も激しく動く。メインスプリング、ピストン本体、ピストンヘッド、Oリング等から構成される。ピストン本体には、ラックやガイドレールがある
Cスプリングガイドセット:メインスプリングが、スムーズに圧縮できるようにガイドする。メインスプリング受け部分にワッシャが入る
Dシリンダーパイプ:エアを閉じ込め、圧縮できるようにする。ピストン加速のため、途中に穴が開いている
Eシリンダヘッド:シリンダーのフタ。チャンバーへ、エアを導く。シリンダ内面側に緩衝材が張ってあり、ピストンを受け止める部品でもある
Fタペットプレートセット:給弾のための部品。ノズルとスプリングを含む
Gカットオフレバーおよびスプリング:セミオートのときに、スイッチを外し、電流を遮断するための部品
Hストッパーレール:メカボックスの上部の締結部品
I軸受け:ギヤ軸の軸受け
Jピニオンギヤ:モーターの回転軸先端に付いた小歯車
Kベベルギヤ:ピニオンギヤにより駆動され、スパーギヤを駆動する歯車。逆転防止ラッチのかかる部分を持つ
Lスパーギヤ:ベベルギヤにより駆動され、セクターギヤを駆動する歯車
Mセクターギヤ:スパーギヤにより駆動され、ピストンのラックとかみ合い、コッキングを行う歯車。タペットプレートを駆動するためのピンおよびカットオフレバーを駆動するためのカムを持つ
N逆転防止ラッチ:ベベルギヤの逆転を制限する部品。スプリングに押されて、ベベルギヤのラッチ部とかみ合う
Oモーター:駆動力の源。P90はEG1000を使用
Pモーターホルダ:モータを保持し、メカボックスに取り付ける部品

 以上より、電動ガンの音は、3領域に分類でき、個々の音の性質に応じた対策が必要なことがご理解頂けると思います。各領域別の対策法は以下のようなものと考えます。
<コッキング領域>
1)電動ガン本体の防音対策
2)ギアの減音対策
<発射領域>
1)電動ガン本体の防音対策
2)発射音の低減対策
3)ピストンの打撃音対策
<空転領域>
1)電動ガン本体の防音対策
2)ギアの減音対策
3)スプリングの振動対策
この中で比較的容易で効果の高い順に並べると以下のようになると考えます。
1)電動ユニット周りの吸音対策
2)発射音の低減対策(サプレッサ)
3)ギヤの減音対策
4)ピストンの打撃音対策
5)電動ガン本体内部の防音対策
6)その他の要素の対策(マガジン給弾音等…)

1)電動ユニット周りの吸音対策と2)発射音の低減対策(サプレッサ)は、第1回と第2回で行いました。

●ギヤの減音対策の方法

 電動ガンの音が分かったところで、今回は、ギヤの減音対策を考えてみましょう。純正品ギヤの使用に限定すると、工業的に行われている方法の中で、適応できそうなものは、以下の2項目です。
○適当な『なじみ運転』による歯面粗さの改善
○粘度の高い潤滑油の使用
 ここで、粘度の高い潤滑油の使用については、条件の設定、条件の維持が困難なため、今回は取り上げません。完成形に近づいた時点で、実験するつもりです。

●『なじみ運転』をしよう!

 皆さんは、『長年愛用している電動ガンのギヤノイズが、新品の電動ガンより小さい。』と感じたことはありませんか? ギヤの『なじみ運転』によって、これと同様の効果が期待できます。
 実際に、弾を発射することによって、『なじみ運転』を行うのが、最も現実に即していますが、あまりにも傷みそうなのと、連続運転の困難さ、音圧レベル測定の困難さ等から、今回はギヤのみの状態として行いました。
そのため、以下の部品を取り外しました。
・スプリングガイドおよびワッシャ
・ピストンアッセンブル
・タペットプレートおよびスプリング
・カットオフレバーおよびスプリング
 部品取り外しのためメカボックスを開いたときに、以下の項目を確認します。
1)軸受けの浮き上がり、ゆるみ、ガタ
2)メカボックスリブとセクターギヤのピンの干渉
3)ピストンラック一番後ろの歯とセクターギヤの干渉(なじみ運転後でも可)
4)セクターギヤとタペットプレートの干渉
5)セクターギヤとスパーギヤの歯幅方向のかみ合い
6)スパーギヤとベベルギヤの歯幅方向のかみ合い
7)スパーギヤと逆転防止ラッチスプリングの干渉
8)スパーギヤと軸受けの干渉
9)ベベルギヤとピニオンギヤのかみ合い
10)スパーギヤと調整後のギヤ用ワッシャの干渉(直径8mm使用の場合)
 軸受けの浮き上がり、ゆるみ、ガタに、問題がある場合は、分解し、脱脂後、正規位置(軸受け本体の大径部がメカボックスにはまり込む)に組み立て後、瞬間接着剤を流し込んで、固定します。
 ピストンラック一番後ろの歯とセクターギヤの干渉については、セクターギヤのバリを削ります。(切り粉は、きれいに除去しましょう。)
 その他の項目については、ギヤ用ワッシャの枚数調整(シム調整)によって、解決します。かみ合い幅は大きいほうが好ましいのですが、あまり歯幅方向の隙間が小さいと側面が擦れるので注意が必要です。干渉についても隙間が小さいと側面が擦れるので注意しましょう。
 ベベルギヤとピニオンギヤのかみ合いについては、モータを前後させて、ベベルギヤとピニオンギヤの歯面を一致させます。この状態でバックラッシ(歯面間の遊び)が0.3mm程度あっても、ギヤ用ワッシャは変更しなくて良いようです。(0.15mm厚、1枚)ベベルギヤの歯面粗さが大きいせいかバックラッシを小さくしても、減音できるとは限りません。バックラッシの最適値は、大きいようです。
 潤滑油については、歯面は、基本的に『そのまま』(新品状態と同等)とし、軸受け面、ギヤ軸、ギヤ用ワッシャ側面は、東京マルイ製高粘度特殊グリスを塗布しました。これは、歯面は、ある程度磨耗が進行してほしいけれども、軸受けは、磨耗してほしくないという理由からです。
 今回は、安定化電源を使用し、過度の温度上昇を防ぐため強制空冷とし、連続2時間『なじみ運転』を行いました。強制空冷しない場合には、10分運転に対し、20分以上冷却するのが良いでしょう。

●ギヤノイズが約4割減少!

『なじみ運転』によって、ギヤのみの状態のギヤノイズが、3.8dB小さくなるという結果になりました。(約4割の減音)『なじみ運転』を行うことで、歯面粗さや歯当りは、確実に改善されていると考えます。次回、更なる段階へステップアップ、メカボックス対策第2弾。乞うご期待!!

@ギヤのなじみ運転に必要なもの。特殊(トルクス)ネジ用工具、ドライバー(+)、ドライバー(-)(ストッパーレール取り外し用)、ピンセット、東京マルイ製高粘度特殊グリス、ギヤ用ワッシャ(シム)、(以下は場合による)瞬間接着剤、ヤスリ、ノギス(簡易的なものなら100円ショップにある)
A特殊ネジ3本を外し、スイッチユニットを取り外します。さらに皿ネジ2本を外し、モータホルダを取り外します
Bドライバー等で押して、ストッパーレールを取り外します
C特殊ネジ1本を外し、スプリングガイドが飛び出さないようにシリンダ部を押えながら、メカボックスを開けます。開けるときメカボックス左側にギヤが残るように、ギヤ軸を押すと良いでしょう。ピストンが、途中までコッキングされている場合は、逆転防止ラッチを解除しておきましょう
Dシリンダ部を少し浮かせて、スプリングガイドおよびワッシャを取り外し、続いてピストンアッセンブルを取り外します。次にシリンダアッセンブルを外し、タペットプレートおよびスプリングを取り外します。今回は、メカボックスの固定の関係でノズルを残しています
E分解のとき軸受けが抜けてしまったり、回転してしまう状態だったり、浮き上がっている場合は、軸受けを取り外します。軸受け本体とメカボックスの取り付け部のグリスをきれいにふき取ります。軸受け本体は、中性洗剤で洗浄します。メカボックスの取り付け部も同様に中性洗剤で洗浄するのが好ましいのですが、脱脂が目的なので、プラスチック消しゴムで擦るのが楽でしょう。軸受け本体の大径部を少し浮かせた状態で瞬間接着剤を流し込み後、奥まで押し込んで正規位置に組み立てます。はみ出した瞬間接着剤はふき取っておきましょう
F仮組みしてギヤ軸のガタを測定します。ギヤ軸を押し込んだときと、反対側から押し込んだときの差をノギスで測定します。軸受け本体からギヤ軸がはみ出すことが多いので、0.5mmのギヤ用ワッシャをはさんだ状態で測定するといいでしょう
Gベベルギヤとピニオンギヤのかみ合いは、モータを前後させて、ベベルギヤとピニオンギヤの歯面を一致させます。この状態でバックラッシ(歯面間の遊び)が0.3mm程度あっても、ギヤ用ワッシャは変更しなくて良いようです。(0.15mm厚、1枚)ベベルギヤの歯面粗さが大きいせいかバックラッシを小さくしても、減音できるとは限りません。バックラッシの最適値は、大きいようです
Hギヤ軸ガタの測定値を基にギヤ用ワッシャ(シム)を追加します。新品状態においてギヤ用ワッシャは各1枚入れられており標準値は以下の通りです。 [ベベルギヤ右側0.15mm、左側0.3mm、スパーギヤ右側0.5mm、左側0.3mm、セクターギヤ右側0.15mm、左側0.3mm] ベベルギヤとピニオンギヤのかみ合いに問題がなければ、ギヤ軸ガタの測定値分(または、少し少なめ)のギヤ用ワッシャ(シム)をベベルギヤ左側(小歯車側)に追加します。外径の異なるギヤ用ワッシャを重ねて使用する場合は、軸受けの側面の傷みを促進しないため、軸受け側に径の大きなものを使用します。 次に、スパーギヤにギヤ用ワッシャを追加します。ベベルギヤ小歯車の歯幅内に、スパーギヤ大歯車が収まるようにスパーギヤ左側(大歯車側)にギヤ用ワッシャを追加します。ここで逆転防止ラッチスプリングがスパーギヤ大歯車側面に干渉、もしくは、隙間が小さい場合は、ギヤ用ワッシャを薄くする必要があります。スパーギヤ右側に不足分のギヤ用ワッシャを追加します。ギヤ用ワッシャを重ねて使用する場合は、軸側に穴径の小さいものを使用したほうが良いでしょう。 続いて、スパーギヤとセクターギヤのかみ合いをセクターギヤ左側にギヤ用ワッシャを追加することで調整します。あまり歯幅方向の隙間が小さいと側面が擦れるので、可能であれば0.2mm近い隙間を確保したいところです。セクターギヤ右側に不足分のギヤ用ワッシャを追加します
Iセクターギヤ右側にギヤ用ワッシャを追加した状態でメカボックス右側に仮組みして、セクターギヤとタペットプレート、セクターギヤのピンとメカボックスのリブの干渉を確認します。干渉する場合は、ギヤ用ワッシャの厚みの割り振りを変更し再確認します
J仮組みして隙間等を確認をします。軸受けの側面の傷みを促進しないため、ネジ止めしたときに、回転が固くならない程度のガタを残しましょう
K潤滑油については、歯面は、基本的に『そのまま』(新品状態と同等)とし、軸受け面、ギヤ軸、ギヤ用ワッシャ側面は、東京マルイ製高粘度特殊グリスを塗布しました。これは、歯面は、ある程度磨耗が進行してほしいけれども、軸受けは、磨耗してほしくないという理由からです

■メカノイズ測定方法

測定場所は土の地面で周囲に音を反射する有害障害物のない場所を選定。測定対象の音を出来るだけ正確に測定するために、反射、共振の影響が少なくなるよう、フローティングさせて測定している。使用銃(ユニット)はP90TR。測定位置はベベルギヤ中心軸の真上とした。測定中、過度の温度上昇を防ぐため、ユニットは強制空冷とした。冷却ファンの作動音はユニット作動音の-20dB以下であり、測定値に影響を及ぼさないことを確認している。騒音計で取得したA特性フィルタ(耳の周波数特性に補正するフィルタ)補正済みの作動音をパソコンに取り込み、動作音2秒間の騒音レベル算出と周波数特性分析を実施。同時にオシロスコープの状態監視機能で環境騒音レベルが測定条件を満たすこと(測定レベルと環境騒音レベルの差が20dB以上あること)を随時監視している。今回はメカノイズを測定することを主な目的としており、また環境騒音の影響を極力少なくするためと機材の設置距離の制限から測定対象と騒音計の距離は25cmとした。(使用機器:CUSTOM SL-1370 普通型騒音計、FLUKE 123 Industrial ScopeMeter、EDIROL UA-5 USB AUDIO INTERFACE、ノートパソコンpentiumV750MHz)

■動作波形比較

なじみ運転前となじみ運転後の動作波形。2秒間を切り出して重ねて表示している。対策後の音が全体的に小さくなっているのがわかるだろう。ギヤ単体の減音対策方法として、なじみ運転は有効な手法であることが分かる。(なじみ運転時間:電圧8V(P90の動作時状態に近似)で2時間。平均電流3A。ノーマルラージバッテリーで約5本分に相当)

音圧レベル測定結果
なじみ運転前:80.4dB
→なじみ運転後:76.6dB(改善値:3.8dB)

■周波数特性測定結果

約20,000Hzの非常に鋭いピーク(C)を最大に、他の主なピークも1000Hz以上になっている。基本的に突出している周波数成分(@〜C)が聞こえる音に強く影響することから、ギヤノイズは耳障りな高音であることが分かる。ギヤノイズの発生原因の一つに歯面粗さや歯形の不均一による、歯当りの悪さがあるが、なじみ運転を行うことでほとんどの周波数で約3〜4dB小さくなった。歯当りの改善は、広い周波数の音に対して効果があると言えるだろう。(設定:FFTサイズ:2048、窓関数:Hanning)ピーク周波数880Hz(全周波数の中で最も大きな音圧レベル)より-20dB(10分の1)以下は無視できる為、切り捨ててある。

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