第9回『勝つためのウエポン』
『実力検証』

(アームズマガジン 2004年11月号掲載掲載)


 数ある『勝つため』の対策の中で、安全性を維持しつつ、攻撃力と生存率を同時に高められる、極めて合理的な方法『静粛化』。その対象として、最も一般的で、使い勝手が良い『電動ガン』を選択しました。
 数ある『電動ガン』の中でも、軽量で短く、取り回しやすく、かつ対策が容易な『P90』。我々は、P90の持つバランスを出来るだけ損なわぬよう考慮して『静粛化』を試みてきました。
 今回はその結果を、様々な角度から検証してみます。

今まで、計8回に渡って、対策を行ってきました。果たして、『サイレントカスタム』と言えるのか?更に『勝つためのウエポン』と言えるのか?効果を検証するにあたり、まずその対策項目を簡単に再確認しましょう。

いよいよ効果の検証に入りましょう。比較対象のP90TRは『なじみ運転』の効果の影響を避けるため、新品を用いました。
測定項目は下記としました。
@全長
取り回しを考えれば、短いほど良い。
A重量
戦闘中における、取り回しを考えれば、軽いほど良い。
B重量バランス
重心がグリップ中心に近いほど、保持が容易になり、かつ保持が安定する。(特に片手の場合)
C初速及び安定性
レギュレーションを超えない範囲であれば、初速が速く、安定している方が有利である。エアダンバーシステムの採用により、どの程度影響を受けているかを確認する。
D集弾性
グルーピングは、小さいほうが良い。エアダンバーシステムの影響を確認する。
E作動音(サプレッサ正面1m、両側面1m)
正面と側面では、発生する音の性質が異なる。正面は発射音が主な音で、側面はメカノイズが主な音である。
それぞれ波形を取り、比較する。
Fフィールド聴感距離
実際のフィールドにおける、聞こえにくさの違いを、距離で表すことを試みる。

@全長

バットプレート後端から、サプレッサ先端までを測定。
ノーマル:670mm。
カスタム:608mm。
差:62mm。

A重量

品名

ノーマル(g)

カスタム(g)

備  考(ノーマル/カスタム)

サプレッサ

94

140

TR付属/大容量(ファイアーフライ すかしへショート)

サイトレシーバー

442

326(※1)

※コッキングプレート、サイドレール取り外し

本体フレーム

496

620

取説名称:レシーバー

電動ユニット

690

860

バッテリー

142

136

ノーマル/Eagleforce RC500AR 8.4V

合計

1,864

2,082

※2 秤の制限から、500g以上は5g刻みとなる為、表記数値には、数グラムの誤差が含まれる。

B重量バランス

実使用状態(バッテリー、ノーマルマガジン(空)、サプレッサ付、スコープ無し)における、重心位置を測定し、グリップ中心位置からの距離を比較する。細めのパイプ(直径10mmを使用)上で銃をバランスさせたとき、パイプの軸線上に重心はある。方向を変えて再度バランスさせ、2本の軸線の交点が重心点となる。グリップ中心は、個人差はあるが、参考として、グリップ内側の直線部分の中央線と、この位置のグリップ幅の中央とした。

重心位置(バットプレート上端基準):

ノーマル:下49mm,前221mm。

カスタム:下51mm,前206mm。

C初速及び安定性

測定場所は室内。(気温約23℃)100発程度のウォーミングアップ後、サンプル10発取得。単位[m/s]東京マルイ0.2g弾使用

ノーマル

カスタム

1発目

86.7

76.6

2発目

86.6

77.4

3発目

86.2

77.8

4発目

86.1

77.7

5発目

86.0

76.6

6発目

85.6

76.0

7発目

86.2

76.1

8発目

85.7

76.4

9発目

87.1

76.2

10発目

86.8

76.7

平均

86.3(0.74J)

76.8(0.59J)

D集弾性

測定場所は室内。距離20m。(気温約23℃)100発程度のウォーミングアップ後、10発グルーピングを測定。

ノーマル:145mm
カスタム:165mm

E作動音

測定場所は土の地面で周囲に音を反射する有害障害物の無い場所を選定。測定対象の一箇所をサポートし、立射にて3方向を測定。使用銃はP90TR(ノーマル/カスタム)。弾丸発射状態で測定。騒音計で取得したA特性フィルタ(耳の周波数特性に補正するフィルタ)補正済みの作動音をパソコンに取り込み、フルオート2秒間の騒音レベル算出と周波数特性分析を実施。同時にオシロスコープの状態監視機能で環境騒音レベルが測定条件を満たすこと(測定レベルと環境騒音レベルの差が20dB以上あること)を随時監視している。測定対象と測定器の位置関係はJIS Z 8731:1999(環境騒音の表示・測定方法)に準拠している。(使用機器:CUSTOM SL-1370 普通型騒音計、FLUKE 123 Industrial ScopeMeter、EDIROL UA-5 USB AUDIO INTERFACE、ノートパソコンpentiumV750MHz)

動作波形比較

音圧レベル測定結果
正面:ノーマル:74.6dB→カスタム:69.0dB(改善値:5.6dB)
右測面:ノーマル:74.6dB→カスタム:66.9dB(改善値:7.7dB)
左測面:ノーマル:75.1dB→カスタム:68.0dB(改善値:7.1dB)

ノーマルとカスタムの動作波形。3発分を切り出して重ねて表示している。正面と、向かって右側面のデータを示す。ピーク音(発射音と考える)に関しては、正面で約4〜5dB(約4割減)の効果が得られた。個体差があるため、今までのデータと改善値は異なる。メカノイズは平均約6dB(約半分)、最大では12dB以上(4分の1以下)と、大きな効果が認められる。右側面のデータを見るとその効果の度合いが良く分かる。発射音を除けば、特徴的ピークがほとんど無いことが見て取れる。

周波数特性比較

全般的に4〜15dBの大きな改善が認められる。ただし、ごく一部ながら改善効果が少ない周波数もある。対策が構造上不十分な部分(モーター周り等)、未対策の部分(マガジン給弾音等)があるので、他の部分が静かになった分、今まで目立たなかった部分が結果的に目立つようになり、ピークとなって現れていると考える。
(設定:FFTサイズ:2048、窓関数:Hanning。ピーク周波数(全周波数の中で最も大きな音圧レベル)より-20dB(10分の1)以下は無視できるため、切り捨ててある。)

Fフィールド聴感距離

場所は舗装道路と草丈50〜100cm程度の草原。騒音計を基準(0m)として距離を取り、徐々に近づきながら射撃を行う。表示が基準値近辺(50±1dB)の時に、作動音によって騒音計のバーグラフメーターが変動した時の距離を5m単位で測定する。測定精度を上げる為、騒音計近傍でホワイトノイズ(擬似環境騒音)を発生させ、表示が50dB近辺で安定するようにした。基準とした環境騒音値(50dB)は環境基本法における昼間の基準値で最も厳しいものを採用。(AA地域。療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域の基準)(使用機器:CUSTOM SL-1370 普通型騒音計)

測定結果

舗装道路は、ほとんど音を吸収しない為、反射も強く、解放空間では最も過酷な測定条件と考える。この条件でも正面で半分近く、側面では3分の1以下の距離短縮となった。草原は高音域を良く吸収するので、更に顕著な結果となった。草原での右側面の測定は、風が強く、基準値が得られないために打ち切ったが、舗装道路での結果から考えて、10m、若しくはそれ以下と推察される。

●検証結果と考察

@全長

 ノーマル比で62mm短くなりました。後述しますが、銃の特性から、ブッシュの濃い場所や身を低くした姿勢での隠密移動が基本となるので、全長は取り回しに大きな影響を及ぼします。一旦短いサプレッサを取り付けてしまうと、ノーマルのサプレッサが長くて邪魔に感じる程です。

A重量

ノーマル比で218g(※2)増加しました。ノーマルバッテリーとTRサプレッサを足した重さに近いですが、重心点で保持すればその違いは意外に少なく、注意して比較しなければ気にならないレベルと感じました。

B重量バランス

グリップ時のバランスは明らかに変化しています。重心の高さ方向の差は2mmと少ないので無視できると考えますが、前後方向は、元々後ろに重心があるノーマルより更に15mm後方になるので、ノーマルと同じつもりで保持すると、明らかにバレルが上を向きます。スコープを載せれば多少改善されますが、意識していないと銃口が上を向いている場合が多く、特に、とっさの射撃では、的を外しやすいでしょう。取り扱いには多少の慣れが必要です。

C初速及び安定性

 エアダンパーシステムを採用した影響から、9.5m/s(11%)ほど低下します。ホップの調整で、ある程度は防げるものの、ノーマルと比較して、飛距離は短くなります。初速安定性には、ほとんど変化は見られませんでした。内部カスタム後に、すでに1万発程度撃っていますが、安定した性能と耐久性を保持していると言えるでしょう。

D集弾性

 20mで、ノーマル145mm、カスタム165mmで集弾性は幾分悪化しています。とはいえゲームでは実用上特に不都合は無いと考えます。

E作動音

正面(発射音)で約4割減、特にメカノイズに関しては半減以上の効果が得られました。電動ガンの宿命ともいえるメカノイズが大きく低減されることにより、周囲に音を撒き散らさないので隠密性が高まると同時に、自分に聞こえる音も大幅に減少するため、周囲の音が聞こえやすくなります。また、『電動ガンとは思えない音』がするので、相手の認識をかく乱する上でも大いに役立ちます。現状でも発射音より、メカノイズのほうが1〜2dB低い状態なので、更なる高性能サプレッサ等により、発射音さえ軽減出来れば、内部を変更することなく更なる高性能化が可能です。

Fフィールド聴感距離

聴感距離測定の基準である50dBは、草原において、樹木の枝が動かず、草が軽く風になびく程度(約2〜3mの風と推定)の音です。この音とほぼ同じ大きさの発射音がした場合、音だけで戦闘中に一瞬で位置を特定したり、体を反応させるのは困難と考えます。(いちいち反応していたら、ゲームにならないとも言えます。)この条件を満たすには、ノーマルでは40m離れる必要があり、確実にヒットさせるのは困難な距離でしょう。パワーアップするにも限界があります。カスタムの場合は、10〜15mの距離まで接近できます。これより遠距離で攻撃対象が回避行動を取ることはまず無いので、初弾を命中させるのは容易になります。更に攻撃対象が複数いる場合でも、メカノイズは発射音よりも更に小さいので、周りの相手に、射撃位置を悟られない確率が高くなります。『安全性を維持しつつ(パワーアップすること無く)、攻撃力と生存率を同時に高める』という目的を達成することが出来たと考えます。

●まとめ

 我々は、本誌で製作したカスタムと、同等性能のプロトタイプとを使用して、平均して月二回程度様々なゲームに参加し、1年以上になりますが、時折おもしろい現象がみられます。近づけば近づくほど、その真価が発揮されるのです。信じがたいかもしれませんが、姿を見られなければ、5m程度の距離から撃っても反撃されることはまずありません。特に複数で一箇所にまとまっている場合等、あわてふためく姿、話す言葉から、相手にとっていかに厄介な存在であるのかが実感できます。この点を取るならまさに『サイレント』と呼ぶにふさわしいでしょう。必要があれば、フルオートで一掃できるのは電動ガンならではの強みです。
 対して、隠れる場所の無いフィールドでは、殆どその効果は発揮されません。一旦姿を見られると、その対処は困難です。飛距離の点で不利だからです。特にパワーレギュレーションぎりぎりまで高められたカスタムガン等に見つかったら、逃げるしかありません。また、30m以上の長距離射撃(特に移動中)の場合、相手に全く音が聞こえない上、着弾の感覚も弱いので、ノーマル以上に『ヒット』と認識してくれない確率が高くなります。
 使用するマガジンは、ノーマルを推奨します。音が静かで、給弾が確実だからです。P90の弱点の一つとして、多弾数マガジンの給弾不良が起こりやすいことがあります。給弾不良になった場合のリスク(マガジンをたたく音、ゼンマイが空回りする音など)は作動音よりはるかに大きな音なので、命取りとなりかねません。このカスタムの特徴を生かした戦い方をしていれば、よほど大人数のゲームでなければ、ノーマルマガジンで、困ることはありません。
 これらを考えると、決してオールマイティーなウエポンとは言えませんが、迂回、待ち伏せ、守備等、敵に姿を見せないことを前提にした、近距離戦闘を得意とするゲーマーにとっては、『サイレントガン』、『勝つためのウエポン』として、非常に有効に活用できると考えます。
 以上で、P90サイレントカスタム『弐式突撃銃』は、完成とさせていただきます。次回は、惜しくも製作記事としては御紹介できなかった対策、アイディアを『番外編』として紹介します。乞うご期待!!

■P90サイレントカスタム『弐式突撃銃』仕様

全長:608mm
全高:210mm
全幅:55mm
重量:2082g
初速平均値(10発):76.8(m/s)
集弾性平均値(10発):165mm/20m
音圧レベル(計測条件は『E作動音−測定方法』による。)
正面:69.0dB
右測面:66.9dB
左測面:68.0dB


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